
こんにちは。
カメラマンの松山文弥です。
この写真で僕が残したかったのは、
ドーナツそのもののおいしさだけではありません。
木のカウンターの前に立ち、ガラスケースの向こうに並んだドーナツを見つける。
そんな「注文する少し前の時間」です。
写真の中央にはドーナツがありますが、
画面の多くを占めているのは木のカウンターとガラスです。
商品へ近づけばドーナツをもっと大きく写せます。
それでも今回は距離を詰めませんでした。
このお店の魅力を伝えるには、商品だけではなく、
そこへたどり着くまでの店内の空気も必要だと感じたからです。
木のカウンター越しに見つけるドーナツ
ドーナツは画面いっぱいに置かず、
ガラスケースの奥に少し小さく配置しています。
その手前には大きな木製カウンターがあります。
この距離があることで、写真を見る人は商品を真正面から眺めるのではなく、
実際に店内へ入り、カウンターの前からドーナツを見ているような感覚になります。
僕が構図を決めるときに見ていたのは、
ドーナツの大きさではなく「お客様から商品までの距離」でした。
店舗撮影では、被写体へ近づくほど情報は分かりやすくなります。
ただ、近づいたことで失われるものもあります。
この場面では、あえて引いた位置から撮ることで、
この店で商品を選ぶ体験そのものを残しました。
主役を小さくすることで、かえって視線を集める
画面の中には木目、ガラスの枠、メニュー、ナプキンケースなど複数の要素があります。
それでも視線は自然と中央付近のドーナツへ向かいます。
周囲を比較的落ち着いた色で構成し、
その中にドーナツの暖かな焼き色があるからです。
僕は主役だから大きく写す、
という考え方だけで構図を決めません。
周囲との明るさや色、余白の関係を整えれば、
小さな被写体でも十分に存在感をつくれます。
撮影する側から見ると、ここで大切なのは「何を足せば目立つか」より
「何を主張させすぎないか」です。
店内に元からある要素を無理に動かさず、
ドーナツへ視線が戻ってくる位置を探しました。
木の暖かさとグレーの静けさを同じ画面に残す
手前のカウンターには、
節や濃淡まで見える木の表情があります。
背景は対照的に、グレーを基調とした落ち着いた空間です。
この暖色と無彩色の差が、店内の印象をつくっています。
木を明るくしすぎれば軽く見え、
背景まで暖かく寄せると空間本来の静けさが薄くなります。
僕は木の色をきちんと感じられる状態を保ちながら、
奥には少し落ち着いたトーンを残しました。
ドーナツも木と近い暖かな色を持っているため、
カウンターと商品が別々に浮かず、一つの店内風景としてつながっています。
店舗を撮るとき、僕は壁や什器を単なる背景として扱いません。
その素材や色も、お客様が店から受け取るブランドの一部だからです。
ガラスの反射を消し切らず、そこにある空気を写す
ショーケースを撮影するとき、
ガラスの反射は邪魔なものとして考えがちです。
この写真にもガラス越しの淡い反射や光の写り込みがあります。
僕はそれを完全には消していません。
反射をなくして中の商品だけを鮮明に見せれば、
商品写真としては分かりやすくなります。
けれど今回は「ケースの中に並んでいる」という状況まで写真の情報として必要でした。
反射が強くなってドーナツを隠さない位置を探しながら、
ガラスらしさは少し残す。
その加減によって、
見る人と商品との間に実際のショーケースが存在している感覚が生まれます。
撮影では、写り込みをゼロにすることより、
それが写真の邪魔なのか、その場所らしさなのかを判断することが大切です。
商品を撮らない時間にも、店のブランドは写っている
飲食店の撮影というと、
料理や商品を大きく撮った写真が中心になりやすいものです。
もちろん、ドーナツそのものをしっかり見せる写真も必要です。
ただ、WebサイトやSNSに商品写真だけが並んでいると、
味は想像できても「どんな店で買うのか」までは伝わりません。
この一枚には、木の質感、ガラスケース、商品との距離、落ち着いた店内の色があります。
それらが重なることで、初めてこの場所ならではの第一印象になります。
僕が福井県で店舗撮影をするときに残したいのは、
完成した商品だけではなく、お客様が店に入って商品を見つけ、
選び、手に取るまでの体験です。
写真を見た人が「このドーナツを食べたい」だけでなく、
「このお店に行って選んでみたい」と感じる。
その気持ちまでつながる写真を、店舗の空気を見ながらつくっています。




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